記憶というものは極めて曖昧なものである。具体的な事象やそれに伴って感じたことはよく覚えているが、ただ単に何かに心動かされるような、心情的なことはすぐに忘れてしまう。大学在学中だったと思うが、音楽を聴いて、誰かにそのすばらしかったことを、話さざるを得ないほどの感銘を受けたことがある。
それは、ラジオを通して聴いたレフ・オボーリンのピアノ演奏だった。演奏終了後すぐに、従姉に電話をかけて、「いまのオボーリンの演奏、聴いた?」と尋ねた。彼女は武蔵野音大でピアノを専攻していて、オボーリンが来日し、渡辺暁雄指揮、日フィルと共演することをよく知っていた。勿論、彼女もその演奏をラジオで聴いていた。二人でその卓越した演奏について語り合ったことを覚えている。その演奏がどのようにすばらしかったかはまるで覚えていない。演奏の良さを言葉で表すことは、直前に聴いた音楽でさえ難しい。いまから調べると、オボーリンが来日演奏したのが1965年10月22日である。オボーリンが来日した頃には、オイストラフと共演したベートーヴェンの「クロイツェル」と「春」が入ったレコードを持っていた。演奏が優れていたのは勿論だが、昔のラジオとは云えども、実況生放送を聴くのと、編集したレコードで聴くのとはずいぶん違ったと思う。
私が、音楽、とくにクラシックを聴くようになったのは、高校時代である。大学に入ってからは、武蔵野音大でピアノを教えていた叔母や音大生の従姉妹たちの影響で、音楽の話をするのは当たり前のようになっていた。いまでも、その従姉妹たちとは兄弟同様のお付き合いをさせてもらっている。もと東響でオーボエ奏者だった旦那もいて、みんなで集まると、飲みながらの音楽談義になってしまう。
私がステレオ装置らしき、アンプやチューナー、レコードプレーヤーを揃えたのは、現在の家を購入してからで、それ以来、たくさんのレコードも買った。でも、あまり高価な装置は持っていない。音楽は、曲の次は演奏で、次が録音、最後に再生装置と思っている。オーディオの雑誌を見ると、高価な装置は評判が良い、安い装置は入門者向けということになっている。私はそういう意味では、いつも入門者だ。お金もないが、家の中のスペースに制約されて、大きいスピーカーなど置けない。
現在、私は2セットのオーディオ装置を使っている。メインの装置はリビングにあり、もう一つが書斎にある。メインの装置は1993年頃から、代々、7.1チャネルシステムだ。マルチチャネルにしたのは、コンサートホールで聴く感覚でクラシックを聴きたかったからで、たまたま、アンプを買い換えたいと思って秋葉原に行って見つけたものである。ヤマハが出していた、DSP-2000という、今で云うAVアンプである。メインスピーカーは従来のプリメインアンプに接続し、センタースピーカーやフロントとリアのエフェクトスピーカー、サブウーハーを加えて、実際のコンサートホールの音場を作り出すという代物である。スピーカーはたくさん要るが、大きいスピーカーは必要ない。そのあと、98年にメインアンプも、スピーカーもほとんどを入れ替え、ヤマハのDSP-A1に替えている。それと同時にスピーカーはフロントをハーベスHL-P3ESに替えた。BBCモニターのLS3/5Aを改良してクラシックを中心とした音楽用にアップグレイドしたものである。このスピーカーは、フロントスピーカーとしてクラシックを聴くには最適であると思う。現在は、ヤマハのDSP-AX4600を使っている。A1に比べると音場の数は少ないが、オーディオ用AVアンプとして設計されたもので、静ひつ感はすばらしい。DVDプレーヤーも同時にユニバーサルプレーヤーに買い換えたが、ほとんどCDプレーヤーとして使っている。
最近はマルチチャネルシステムもオーディオファンから見直されつつあるようだが、数年前まではピュアオーディオファンからはAVアンプでオーディオを聴くのは邪道のように云われた。もちろん、家電量販店なんかで、テレビの前に置いてあるサラウンドシステムはやはり5.1チャネルの映画を見るためのもので、音楽を聴くには不満を感じるかもしれない。しかし、良い音で、音楽を聴くに耐えられるピュアオーディオ用のスピーカーとAVアンプを使えば、大型スピーカーにも負けないシステムになると思う。。マルチチャネルで音楽を聴くメリットは、コンサートホールで音楽を聴いているのと同じ雰囲気を味わえることである。それと床や壁などをあまり気にしなくて済む。もちろん、映画の音声をマルチチャネルで聴くのも楽しみたい。テレビで放送される音楽番組や5.1チャネルで放送される番組をテレビに付いているスピーカーで聴いたのでは、と思ってしまう。
昨年の6月に我孫子市オーディオファンクラブ(AAFC)に入会した。例会ではいろんな音楽を聴かせていただいた。また、自作のスピーカーやアンプなどの音も聴くことができた。うらやましいのは、みなさんが、時間的にも、経済的にもずいぶん余裕をお持ちだということである。
もう一つは奥さんが、オーディオに関して、よく理解してくださっていることである。一般的に女性のオーディオファンは少ない。しかも、長いクラシックを音量を上げて聴くなどとは信じ難い。我家では、自分の部屋ではいつもCDやレコードを聴いているが、リビングルームにあるメインシステムでCDを聴くのは、女房が留守のときだけで、普段はめったに聴かない。また、自作のスピーカーで綺麗でピュアーな音を聴かされると、つい欲しくなる。
書斎のオーディオ装置は確かにオーディオ誌の云う、入門用だが、この前のAAFCのオークションで買ったスピーカースタンドのお陰で、音がよく響くようになり、トーンコントロールも高低音を強くする必要がない。その方が柔らかくて良い音が出る。今でも、「趣味はオーディオではなく、音楽鑑賞である」で良いと思っている
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