奈良、京都での花見旅の最後の日に、昨年も訪ねた宇治に立ち寄った。今回は妻が同行していたので、10円玉に彫られている平等院を見ることにした。私が観たかったのはもう一つの、「源氏物語」宇治十帳の世界である。
宇治十帖は「源氏物語」の最後の10巻、『橋姫』~『夢の浮橋』である。JR宇治駅で配られているパンフレットにはそれぞれの記念碑の地図が掲載されている。物語と場所とは何ら関係は無いようだが、世界文化遺産の一つである宇治上神社や源氏物語ミュージアムを廻るルート案内の役目をしている。宇治は平等院であまりにも有名だが、宇治川を渡った宇治十帖の世界も落ち着きのある観光地である。
宇治平等院
昨年も訪れたが、何度来ても良いところだ。妻は初めてで平等院の美しさには感心していたが、阿弥陀如来や雲中供養菩薩像、九品来迎図(鳳凰堂壁画)などには猫に小判であったようだ。
私は、今回は平等院の塔頭、浄土院や最勝院、観音堂に興味を持った。最勝院には源三位頼政の墓がある。源頼政は源氏でありながら、保元の乱、平治の乱でも勝者側で戦っており、平清盛の信頼も厚く、従三位の地位まで上りつめている。
平家が栄華、専横を極めていた頃、清盛の娘、徳子(後の建礼門院)が高倉天皇の后となる。その間に生まれた安徳天皇がわずか三歳で即位するに到って、後白河法皇と平家との間に軋轢が生じ、法皇の第三皇子、以仁王をもって平家打倒の令旨を発せしめる。頼政は以仁王を担いで兵を挙げることとなるが、これがきっかけとなって、源頼朝や木曽義仲、義経にいたる源平の合戦が始まるのである。
平家物語の中でも、頼政の鵺(ぬえ)退治の話や、平家の大軍に追われ、以仁王を守って興福寺に落ち延びる途中、宇治川を挟んでの合戦の模様が描かれている。頼政はこの地で自害するが、これらの話は能楽にも取り上げられ、それぞれ「鵺」「頼政」として謡われている。
宇治川
平等院を出て、参道を通らずに、右手に曲ると、すぐ目の前に広々とした宇治川の光景を眺めることができる。川を隔てて橘島という中州がある。橘島は全体が公園になっていて、川辺の桜並木が満開になっている。橘橋の途中から見る光景は平等院側と橘島側の桜に挟まれた急流の景色が見事だ。この島は昔からあって、都で平家追討の院宣を待つ木曽義仲と源頼朝に遣わされた源義経との間で繰り広げられた宇治川の合戦の場所である。島には義経側の佐々木四郎高綱と梶原源太景季の先陣競いの碑が建っている。
島の中を花を見ながら歩くのが心地よい。向こう岸に行くには、朱色で色鮮やかに塗られた朝霧橋を渡る。朝霧橋のたもとには半ば苔で覆われた藁葺き屋根のある陶芸の窯元があり静かな風情をただよわせていた。
宇治十帖の世界
「源氏物語」の最後の十巻は、光源氏の異母弟にあたる八の宮の別荘を舞台に、八の宮の二人の姫君と薫、匂宮の恋物語が中心になる。光源氏はとっくに亡くなっている。この八の宮の別荘のモデルになっているのが宇治上神社である。宇治上神社は平安後期に建てられた寝殿造りの様式をもつ本殿と、鎌倉前期に建てられた拝殿がある。現在に残る神社建築としては最古の建物である。神社は伊勢神宮や賀茂神社、春日大社など歴史的には古いにも係わらず、式年遷宮のように建物を作り替えてきたため、建築物としてはみんな新しいのだ。また、神道は偶像崇拝ではないため、仏像のような物も無い。
宇治上神社は世界遺産に登録されている国宝である。観光客も少ない。ゆっくりとくつろげるパワースポットと云われても良い場所である。 源氏物語ミュージアムにも立ち寄ったが、「源氏物語の世界」を現代から見た色鮮やかな空想の世界として思い描くための綺麗な場所でしかない。








