アーヨの「四季」 2012/2/17
雨の降りそうな夕方、上野にある東京芸大の奏楽堂に出かけた。上野の駅で夕食を済ませ、外へ出ると霙(みぞれ)が降っていて冷え冷えとした景色が見える。上野公園の中はほとんどが工事中で、街灯のかすかに灯る中を国立博物館の方向に歩いた。都美の裏側にある旧奏楽堂は昼間しか行かないせいか、いつも閉まっていると思っていたが、明々とした照明が点いている。ひょっとしたらと思い、その方向から来るご夫婦に「フェリックス・アーヨのコンサートはあそこではないですよね?」と聞いてみた。「新しい奏楽堂ですよ」との応えで、お二人とお話ししながら、芸大の構内に入り、奏楽堂らしいところへ出た。開場まであと30分もあるのに、霙の中をすでに100人程の人が並んでいた。中には傘を持たない人もいる。開場時間になる前に扉が開けられ、人の列がコンサート会場にぞろぞろと入りだした。席は自由席で前から10番目あたりで、コンサートマスターが演奏する席の真ん前を確保できた。大きなホールだったらSS席である。これで2000円は安い。
私自身もそうだが、ほとんどのお客はフェリックス・アーヨの演奏を聴くために来た観客と思われる。
アーヨが独奏するイムジチ合奏団演奏のヴィヴァルディの「四季」のLPレコードを買ったのは、多分、私が大学生の頃だったと思う。その当時のレコードプレーヤと云えば、ポータブルレコードプレーヤと呼ばれて、スピーカーもアンプもすべて一体になっているのが通常であった。針はダイヤモンド針ではなく、サファイヤ針が使われていた。サファイヤ針は摩耗が早く、レコード
を痛めてしまう。10年も後に買った、ダイヤモンド針やカートリッジ付きのレコードプレイヤーで聞くと雑音だらけになってしまっていた。それまで持っていたレコードはその時期に捨ててしまったと思う。現在はそのレコードは無く、次のミケルッチ盤がある。当時、J.S.バッハ以前の音楽がバロック音楽でヴィヴァルディの「四季」はその代表的な名曲になっていた。
ヴィヴァルディの「四季」と云えばイムジチ合奏団だったし、独奏者はミケルッチの前のアーヨの方がはるかに評判が良かった。
今回のコンサートのパンフレットを従兄にもらった時、びっくりしたのは何十年も前に聴いていたフェリックス・アーヨが出演すると云うことだ。とっくの昔に亡くなっていると思っていたアーヨの演奏を聴けるというのだ。「エッ!あのアーヨ?」と聞き返したほどだった。
フェリックス・アーヨは私より10才だけ年上にすぎない。レコードを買った頃のアーヨはまだ30を過ぎたばかりの若者だったのである。彼は18歳の時、イムジチ合奏団の創設メンバーとなり16年間、ソリストとして活躍し絶賛されていた。
芸大奏楽堂のホールは小さく、13名の合奏協奏曲を演奏する会場としてはぴったりであった。アーヨ以外のメンバーは東京芸大の教授、准教授ではあるが、プロのソリストであったり、オーケストラのメンバーとしても活躍している方々で質の高い演奏であった。
最初の演奏はヴィバルディ「調和の霊感」の中の「4つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲」でアーヨの伸びのある透き通ったヴァイオリンの音が際立って聴こえた。席が良かったせいだとは思うが、楽器一台一台の音がストレートに耳に入ってくる。
次のJ.S.バッハ「2つのヴァイオリンのための協奏曲」もバッハの特徴がよく出た演奏だった。
でも、やはり、アーヨの「四季」が圧倒的である。まさに彼はヴィヴァルディとくに「四季」を演奏するために生まれた人なのかもしれない。現在私が持っているCDはカルミニョーラの演奏で、彼のテクニックで押しまくるような演奏より、アーヨの穏やかな演奏の方が懐かしく好感が持てる。
帰りは霙も降りやんでいて、急いで帰宅の道を歩んだ。
