イソップ寓話の中に「オオカミ少年」という、有名なお話がある。「羊飼いの少年が、退屈しのぎに『狼が出た!』と嘘をついて騒ぎを起こす。大人たちは騙されて武器を持って来て、『オオカミはどこだ~』と騒ぎ出す。それが面白くて少年が繰り返し嘘をついたので、本当に狼が現れた時は大人たちは信用せず、誰も出て来なくなった。そのため、その少年は狼に食べられてしまう」というあらすじである。小中学生の頃、悪ふざけで嘘をつき、それを信用して困った顔をすると。「バーカ、騙された! 騙された!」と面白がる子供がいたものだった。
6月2日にそんな子供ではなく、大の大人の話が、新聞の第一面で報道された。菅直人首相の話である。この日、正午過ぎに民主党代議士会で、首相は東日本大震災の復旧・復興と東京電力福島第一原発事故の対応に一定のめどがついた段階での退陣を表明した。これを受けて、鳩山前首相から、この日に野党から提出される予定になっていた内閣不信任決議案に反対するよう呼びかけがなされた。それまで、鳩山氏も小沢一郎元代表も賛成の意向を表明し、民主党の造反議員は90名を超えると予想され、衆院本会議で内閣不信任案が通過し、菅内閣が総辞職するか、解散総選挙になるかのどちらかになっていたのである。
賛成から反対に変わった、鳩山氏は午前中に菅首相と首相官邸で会談をして、一枚の文書を差し出し、サインまで求めていた。「同じ身内の話で、署名まではいらないでしょう。私を信用して下さい」の返事に、サインはなされなかった。この会談で、「復興基本法が成立し、第二次補正予算案のめどがついたら退陣していただきますか?」に対して、「分かりました、合意します・・・」の約束がなされた。この時期に、衆院解散総選挙は不可能に近い。また、総辞職しても、このままでは民主党が分裂し、自民党に内閣を明け渡しかねない。鳩山氏としては首相の自主的な内閣総辞職が最も望ましいところだった。上記の条件なら、6月中にでも内閣総辞職がなされ、菅首相の退陣も可能である。
結局、衆院総会ではそれまで賛成に廻っていた民主党議員が、鳩山氏の呼びかけで鞍替えし、賛成「152」反対「293」で内閣不信任案は否決された。
ところが、採決後の記者会見で、首相はしてやったりと満面の笑みを浮かべ、「鳩山氏との会談ではそういう話もあったが、約束はしていない。文書には退陣の時期などどこにも書いていない。一定の『めど』とは原発が冷温停止になった頃だ」と述べている。このときの写真はまさにふざけて、「バーカ、騙された! 騙された!」と笑っているがき大将の顔である。子供がふざけて嘘をつく程度ならいざしらず、この千年に一度の国難に対峙して、真剣に復旧・復興を願う宰相の顔ではない。まるで、政治を弄んでいるようだ。
翌日の新聞で報道された、鳩山氏が「ペテン師だ」と激怒したのは当然である。首相は四国八十八ヶ所巡りの途中で、次は「延命寺」だと云う。白衣に同行二人と書いても、弘法大師は一緒に付いて来られまい。「死して屍拾う者なし」となり、餓鬼道に落ちることになるだろう。
「こんな人をいつまでも首相の座に置いておくわけにはいかない」どころではなく「大人、いや、人間としてあるまじき態度である」なのだ。このような狂った人間を、首相として、いや、国会議員としてのうのうと生かしている日本人の一人であることが恥ずかしい。

